BMW Motorradを象徴するパワーユニットといえば、やはりボクサー、つまり水平対向エンジンです。
左右に張り出したシリンダー。低く構えたクランクケース。そしてエンジンから後輪へ力を伝えるシャフトドライブ。BMWのRシリーズに乗ったことがなくても、そのシルエットを見ただけで「これはBMWだ」とわかる人は多いでしょう。

ジャイロ効果を生むクランク軸やウェブの回転の向きが、一般的な並列2気筒と全く違います。
どんな違いがあるのか、見てみましょう。

「水平対向」だけでは、BMWらしさは説明できない
ボクサーエンジンのメリットとして、まず挙げられるのが低重心です。
ピストンが左右に寝ているため、エンジン全体の高さを抑えやすい。重い部品を低い位置に置きやすい。結果として、車体の押し引きや低速走行時に、スペック上の数字ほど重さを感じにくいことがあります。
また、左右のピストンが向かい合うように動くため、振動面でも有利です。もちろん実際のエンジン振動はクランク配置、点火間隔、バランサー、車体へのマウント方法などにも左右されますが、水平対向という形式そのものが、振動を打ち消しやすい素性を持っているのは確かです。
ただ、それだけなら「低くて振動の少ないエンジン」という話で終わってしまいます。
BMWボクサーの個性をもう一段深く見るなら、やはりクランクシャフトの向きに注目する必要があります。

「縦置きクランク」とは何か
ここでいう「縦置き」とは、エンジンが縦に立っているという意味ではありません。
クランクシャフトの軸が、車体の前後方向を向いているという意味です。
ライダーがバイクにまたがって前を見る。その視線と同じ方向に、クランクシャフトが伸びている。これがBMWボクサーの縦置きクランクです。
一方、一般的な並列2気筒や並列4気筒、横置きV型エンジンなどでは、クランクシャフトは車体の左右方向に通っています。
この違いが、ジャイロ効果の現れ方を変えます。
ジャイロ効果は「強いか弱いか」だけではない
回転している物体には、回転軸の向きを保とうとする性質があります。これがジャイロ効果です。
バイクでは、前後のホイールが大きなジャイロ効果を生みます。走っているバイクがある程度安定する理由のひとつです。そして、エンジン内部で回転するクランクシャフトやフライホイールも、当然ながらジャイロ効果を持っています。
ただし、ここで大事なのは、ジャイロ効果は「強いか弱いか」だけではなく、どの向きに働くかが重要だということです。
一般的な横置きクランクでは、クランクシャフトの軸は車体の左右方向にあります。そのため、バイクを左右に寝かせる、つまりバンクさせると、クランク軸の向きも空間の中で大きく変わります。回転体は軸の向きを保とうとするため、倒し込みに対する抵抗として感じられることがあります。
一方、BMWボクサーの縦置きクランクでは、クランク軸は車体の前後方向です。回転はバイクに跨って前を見て、目の前に時計があるとすると、時計回りに回っています。
そして、バイクを寝かせる動きは、ざっくり言えば車体の前後軸を中心にしたロール運動です。つまり、クランク軸の向きを大きく変えずに車体を傾けることができます。
だからBMWボクサーは、エンジン内部に大きな回転体を持ちながらも、そのジャイロ効果が倒し込みの邪魔として現れにくい構造なのです。
ここが、BMWボクサーの面白いところです。

「直進安定性」と「倒し込みの軽さ」は分けて考える
BMWボクサーについては、「縦置きクランクのジャイロ効果によって直進安定性が高い」と説明されることがあります。
この言い方は、感覚的にはわかりやすいものです。縦置きに配置された重い回転体が、軸の向きを保とうとする。だからまっすぐ走るときに落ち着いて感じる。そう説明されると、BMWボクサーの印象とも重なります。
ただし、メカニズムとして丁寧に見るなら、直進安定性をクランクのジャイロ効果だけで説明するのは少し危険です。
バイクの直進安定性には、前後ホイールのジャイロ効果、キャスター角、トレール量、ホイールベース、タイヤ特性、サスペンション、車体剛性、荷重配分など、さまざまな要素が関わります。
そのうえで、BMWボクサーの縦置きクランクが面白いのは、ジャイロ効果があるにもかかわらず、倒し込み方向では抵抗として現れにくいという点です。
つまり、
「ジャイロ効果が強いから車体が起き上がろうとする」
というより、
「エンジン内部の回転体はジャイロ効果を持つ。しかし、その回転軸が車体の前後方向を向いているため、バンク方向の動きを大きく妨げにくい」
と考えたほうが、BMWボクサーのライディングフィールにはしっくりきます。
直進ではどっしりとした落ち着きがある。
しかし、寝かせようとすると意外なほど素直に傾く。
この一見矛盾する感覚こそ、縦置きクランクの魅力です。
横向きクランク、並列2気筒の視点から見ると?
結論から言うと、一般的な並列2気筒、つまり横置きクランクのエンジンは、BMWボクサーの縦置きクランクよりも、バイクを左右に傾ける動きに対してクセが少ないです。
一般的な並列2気筒は、クランクシャフトが車体の左右方向に通っています。
つまり、バイクの前から見ると、クランク軸は左から右に横切っている。これは多くのバイク、たとえばMT-07、Z650、CBR500R、レブル500、NC750系などで一般的な配置です。
で、バイクを傾けるとき。倒し込みそのものに対しては、BMWボクサーほど直接的なクセが出にくいです。

すごくラフに言うと、
BMWボクサー
クランク軸:前後方向
バイクを傾ける動き:前後方向の軸まわり
→ クランクのクセが車体の左右の動きに出やすい
並列2気筒
クランク軸:左右方向
バイクを傾ける動き:前後方向の軸まわり
→ 倒し込みには比較的ニュートラル
という感じです。
だから、バイクを右へ左へ切り返すとき、並列2気筒は「普通のバイクらしい自然さ」が出やすいです。特に街中やワインディングで、ヒラッ、ヒラッと寝かせるときに、エンジンの回転体が妙な方向へ車体を引っぱる感覚が少ない。
BMWボクサーは悪いというより、独特の味があるんです。大きな水平対向エンジンが低い位置にあって、低重心で安定感はある。でも、エンジンの回転方向と車体の動きの関係で、アクセル操作に対して左右方向のクセが少し出る。
並列2気筒のメリットは、そこがもっと素直。
あと、横置きクランクの並列2気筒は、エンジン幅こそ少し横に広がりますが、ボクサーほどシリンダーが左右に飛び出しません。だから、バンク角の確保もしやすい。BMWボクサーは現代モデルではかなり改善されていますが、構造的にはシリンダーヘッドが左右に張り出すので、極端に寝かせたときの制約になりやすいです。
まとめると、特に「バイクを傾けるとき」の並列2気筒のメリットはこれです。
倒し込みが自然。
アクセル操作で車体が左右に揺さぶられにくい。
切り返しでクセが少ない。
シリンダーが横に大きく張り出さないので、バンク角を取りやすい。
一般的な車体設計にしやすく、スポーツ寄りにも作りやすい。
ただし、これは「並列2気筒が絶対にボクサーより曲がる」という話ではないです。
実際の曲がりやすさは、エンジン形式だけでなく、車重、重心位置、ホイールベース、タイヤサイズ、ハンドル幅、サスペンション、クランクの重さ、ホイールの慣性で大きく変わります。
でも、エンジンの回転軸だけに注目すると、並列2気筒はバンク操作に対して変な主張をしてこない。BMWボクサーは低重心で安定する代わりに、縦クランクならではの“横の気配”がある。
そんな感じです。
並列2気筒は、ライダーの入力に対して「はい、傾きます」と素直に返してくる。BMWボクサーは「了解。ただし俺の巨大な横寝エンジンの存在も忘れるなよ」と少しだけ肩を組んでくる感じでしょうか?
