バイク! Motorcycle

ハーレーの最新エンジン、レボリューションマックスを「空冷か水冷か」で語るのはやめにしよう。

ハーレーダビッドソンのパンアメリカ、スポーツスターS、ナイトスターに搭載されているエンジン、レボリューションマックス。

試乗レビュー動画を見ると、今までのハーレーを乗っている人の比較が当然ながら多いのですが、常に「空冷から水冷」という観点から語っていて、肝心のエンジンの角度に対して触れられていないことが多いです。

あるレビュー動画で唖然としたのが、ナイトスターの試乗でアクセルを回すと、「あれ? まだ反応が良くないな」と言っていました。

これはおそらく、270度の燃焼間隔にある大きな間について把握してなかったであろう感想で、270度の独特なレスポンスを、「かぶってるのかな?」と評していました。

ちょっと待ってください。それは、今流行の270度の燃焼感覚です!

どうしてハーレーの乗りの方々が、空冷と水冷で語りたがるのか、謎すぎます。

空冷は現代のバイクにおいて珍しいともいえますが、まだまだ存在します。

ロイヤルエンフィールド、ホンダのGB350、ちょっと前に消えはしましたが、cb1000。

空冷独特の音の大きさや音の響き方の違いはありますが、それが従来のハーレーエンジンと今回のレボリューションマックスの音の違いではありません。

それではまるで、あのハーレーの独特で美しい響きが、「空冷だから」ということになってしまいます。

ハーレーのあの響きは、古くはまず45度という2気筒Vツインの設定にしたことから始まります。

2気筒Vツインは下のほうにある円盤のようなクランクウェブを回す際、それぞれのシリンダーから伸びてくるシャフトを、クランクピンというもので固定しますが、二つのシリンダーがそれぞれ同じクランクピンの位置を使います。

そのため、角度を何度にするかによって、燃焼間隔が変わります。

これが、2気筒Vツインエンジンを興味深いものにした理由です。

ドゥカティはご存知の通り90度に設定しました。ハーレーは45度。

結果、ドゥカティは270度回転すると次の爆発が起きて、次に450度も回転して次の回転が起こるエンジンになりました。

一方ハーレーは、315度で爆発、次は405度で爆発という燃焼間隔になりました。

ドゥカティは2回爆発して、休みが長く、ハーレーはどちらかというと等間隔のようなイメージです。

たとえばカワサキのW800や、昔のトライアンフが採用していた360度は、完全な等間隔。(クランクウェブが一回転するごとにどちらかが爆発する。ボクサーエンジンも)

それに比べれば45度は不等間隔ですが、270度に比べれば規則的です。

昔は、270度の不等間隔は、休みの時間が長すぎると思われたかもしれません。最初に紹介したレビュワーが「?」となったのは、この休憩部分です。

でも、90度にすると振動(2次振動)が打ち消されるというメリットがあり、高回転も実現するのです。

また、最近ではグリップ力があるとして再評価されるようになりました。

ハーレーは45度を採用したので、まずは振動対策です。やったのは、シリンダーを長くして、下のほうにあるフライホイール(クラッチと繋げる役割)を大きく重くするという方法を採用しました。

そのため、高回転は犠牲にしましたが、力強いトルクで2つのエンジンがゴンゴンまわる独特のものが完成しました。

さらに昔は、一方のエンジンが失火(燃焼失敗)が起こっていたのか、ドコドコドコといくべきところが、ドコ(ドッ 2気筒目の音)ドコ(ドッ)なって、三拍子リズムになって、2回目の燃焼のあとは少し長いので、ドコドッドコドッドコドッとなるのです。

失火の原因は諸説ありますが、一回目の回転力でもう一方のシリンダーも動きすぎて、タイミングを逸しているとか、ディストリビューターで行う着火の間隔が割り切れないので少しずれてしまうというもの。さらに、失火ではなく、バルブの音がしているといった説があるようです。

すでに最新モデルは失火は解消されて、高回転型、軽いフライホイールでインジェクションになっているにもかかわらず、わざと三拍子を作ったりしています。(アイドリングを遅くすることで三拍子を感じることができますが、オイルがまわらないのでバイクを痛めるといわれています)

なので普通のセッティングで走ると、自然に45度から生まれる燃焼間隔で、走行中の音はドドドドドドドとなっているはずです。

また、カムシャフト、カム方式も独特で、一本のカムシャフトにつけられたカム山の角度やバランスによって吸排気が決まるので、これもエンジンフィーリングにおいて非常に重要な要素になります。

こういったエンジン様式の違いによって、あの独特なハーレーのフィーリングが完成したのです。

レボリューションマックスが行った改革は、空冷から水冷だけではありません。

まず、例のカムの方式(OHV)をやめて、現代的な可変バルブにしました。それだけでも大きな違いですが、最大の違いは燃焼間隔です。

Vツインの角度は、60度にしました。以前にも水冷エンジンで60度を採用したのですが、これはまずVツインのレイアウトのアイデンティティを崩したくなかったこと。でも、ドゥカティが得意とするLツイン(90度ツイン)にはしたくなかったし、90度のレイアウトは良くないという判断。

90度は振動は消せますが、それを45度にしていくにつれ、振動が出てきます。

そのため、今回は二つのシリンダーのクランクシャフトの位置を、30度ずらしました。

すると、燃焼間隔が270度になったのです。

振動は減り、高回転型になりました。しかも、単純な270度とは違うフィーリングもあり、なかなか個性的。

1次振動、偶力振動と呼ばれるものがあるので、バランサーを二つつけて調整しています。

この30度位相という方式は、かつてホンダのアフリカツインやブログが似た角度でやっていました。

Lツインはレイアウトとして幅をとるので、少し角度の狭いこのクランク位相を試したのです。

Lツインの欠点であるレイアウトは、並列にすることで解決しました。トライアンフや現在のアフリカツイン、レブル1100などが採用している並列2気筒270度クランクは、並列なのにクランクの位置をずらして、90度Vツインと同じ燃焼間隔にしました。狙いは450度という休み期間が与えるグリップ力。地面を掴むような感覚です。

単気筒(2回転ごとの爆発なのでグリップあり)や360度(1回転ごとの爆発)は等間隔で、45度ハーレーもそれに近いと書きました。実際は不等間隔ですが、ドドドドと途切れなくパパパパとエンジンが鳴るのは、等間隔に近いのです。

それに慣れていると、270度は休み時間が長くて、スロットルを回してるのに、ドドッと鳴るのが遅く感じるのです。

ドドドドドと鳴っていたエンジンは、ドドッドドッドドッドドッドドッドドッドドッドドッになったのです。

そんな違いを知っていると、実に楽しいエンジンです。

ハーレーはエンジンの個性を大事にしているメーカーです。

だからこそ、流行の90度Vツインも並列も採用せず、誰も採用していない60度にして、さらに30度位相というものをくっつけてきました。

トライアンフやレブル1100の並列270度は正直よく出来ていて、気持ちいいです。

でも、60度V30度位相は個性ありすぎです。

並列の270度は一度走ると面白さや全体像が掴める感じがするのですが、60度V30度位相はまだまだ奥がありそうで、試乗だけではわからない何かがありそうなのです。

45度の鼓動と比べたら、どんな270度もかないません。

でも、環境性能や動力性能がはるかに向上した上で、270度のライバルから「個性」という面でリードしているレボリューションマックスは、なかなか楽しめるエンジンなのです。




  
 

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください