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未来都市へ駆けようとするジャガーI-PACE 


未来的なパワートレインだから、デザインも未来的にしなくてはならない。

なんてことはない。

むしろテスラはクルマ好きの人の心をくすぐるように、あえてガソリン車のようなデザインを指向している。

ジャガーは、とても車らしい車だった。「美学」という言葉が似合い、「美しさ」を感じながら、その流麗なラインを眺めることができるのがジャガーだった。

そのブランドが、2016年に非常に未来的な車のコンセプトを発表した。ピュアEVのI-PACEだ。

F-PACEと違い、そこにはジャガーが大切にしてきたイギリスのダンディズムが少し薄らいでいるように見える。

 

500kmも走れるという電気自動車I-PACEは、今回のジュネーブで実車映像も公開した。

もうほぼ市販車映像と言っても間違いない。

 

ヨーロッパの街並みに溶け込むように走ることができる車はまだたくさんある。

現行ジャガーもF-PACEも、ほとんどの車がまだまだ美しい。

一方で、BMWi-3は東京のような街並みに似合う。

I-PACEも東京やソウルなら似合うかもしれない。ロスにも似合う可能性はある。ドバイにもいい。

でも、欧州人の心を動かすかどうかは疑問だ。

この車と人生を歩みたいと思うお金持ちは少ないのではないか。

皮肉にも、テスラモデルXにはそう思わせる何かがある。

ジャガーはその美学の防波堤なのだ。

 

現在、ジャガーはランドローバーと共にインドタタモーターズ傘下。

フォードから売却されたのは2008年のちょうどいまごろ。

1989年にフォードがジャガーを買収して以来、売却までにランドローバーとあわせて100億ドルの損失があったという。

英国を象徴するようなブランドが、多大な損失を出しながら、かつての植民地であったインドに買収される。

しかし、2013年ごろからタタ傘下で魅力的な新車種を打ち出し、現代のニーズに応えるように変革を進めてきた。

フォード傘下で繰り広げられた高級路線は否定されたのだ。

つまり、「美学」はもういらないという判断を受けたとも捉えられる。

 

実際にイヴォーグの好調はタタに未来を感じさせたのだろう。

イギリスのカルチャーや美学で勝負したというより、よりモダンなイヴォーグが売れたのだから。

じゃあ、未来的なモデルはランドローバーサイドでやればいいじゃないかと思うところだが、こちらはヴェラールを発表した。

レンジローバーらしく、昔の車らしさがないのに、色っぽさがある。

所有する歓びもアメリカ車とは比較にならないほどいい。

しかし、こちらはピュアEVではない。

美学のジャガーがEVを目指したのだ。

 

街中を走るI-PACEをいつの日か見つけたら、人の感性は変性していく。

この車は、私たちの「美学」を未来的に変えてしまうのだ。




  
 

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