F1はバルセロナの合同テストが終わり、あとは開幕戦を待つのみという段階になった。
地上波TV放送もなくなり、報道もあまりされなくなったF1に人々がほぼ興味がなく、好きな人だけが注目しているというのは残念な結果だが、今シーズンのF1は絶対に面白い。
それは合同テストが終わり、絶対的になった。
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ホンダが3シーズン前にF1復帰し、迎えた初戦の期待と落胆。
「きっと次こそは…」と思いながら、あっという間に3シーズンは過ぎてしまった。
そして、マクラーレンと見事に「揉めて」、関係を解消。
今シーズンはトロロッソと組んでF1に挑む。
今回の開幕前合同テストではトロロッソとマクラーレンにどういう結果が出るのか、誰も何もわからないという状況だったが、4日目をたった今終えた結果としては、トロロッソ・ホンダは少ないトラブルで信頼性の高さを証明。
一方、マクラーレンはトラブル続きだが、時折優れたタイムを出すという結果となった。
疑問のようで、触れることも拒んできた、ホンダファンの疑問。それは、「今までマクラーレン・ホンダが遅かったのはマクラーレンのせいなのか。ホンダエンジン(パワーユニット、PU)のせいなのか」ということだが、2017年のトラブル続きに打ちのめされ、「ホンダエンジンがクソだから」というアロンソの言い分を黙って聞くしかなかった。
でも、バルセロナからの情報は、もしかしたらそうでもないかもしれないと希望を持つ内容だった。
なぜなら、マクラーレンが搭載するルノー製PUはライバルのレッド・ブルも使っているもの。もし彼らに問題がなく、マクラーレンの車だけに問題が起きれば、それはマクラーレンに非があると考えるのが妥当だからだ。
実際に、レッド・ブルには問題が起きず、マクラーレンにのみ、問題が頻発した。
しかも、バルセロナから連日届いたマクラーレンのトラブルの原因は、ホンダ時代にも問題になった熱問題だというから、黙っていられない。
テストの結果をもう少し詳しくみてみよう。
第一回1日目は2月26日に行われ、マクラーレン・ルノーのアロンソはホイールトラブルでクラッシュ。復帰して7番手タイムを記録した。一方、トロロッソ・ホンダは93周を走り込んで8番手タイム。
この時点ではマクラーレンのホイールトラブルがその後の彼らを象徴するものになるとは、誰も予想できなかった。また、トラブル続きのホンダPUにトラブルがなかったことで、ホンダファンは「おお」と歓びを抑えつつ、「今回は何か違うかもしれない」と感じたことだろう。PUは3シーズン目の熟成版だから、信頼性は当然と考える人もいる。
雪という最悪のコンディションで始まった2日目はトロロッソ・ホンダが6位。マクラーレンは3位。
トロロッソにとって6位は好位置だし、マクラーレンにとっても3位以上はざわつくレベルだ。
ただしマクラーレンはトロロッソの82周に比べて37周しか走れなかった。原因はオイル漏れで、PUを交換したらしい。
2017年の合同テスト1日目もこんな感じだった。アンダーステア気味のMCLを駆っていたアロンソだが、オイル漏れが発生。たった1周で「バックオフ!(速度を落とせ)」とアロンソに無線が入った。
修理には数時間かかるため、PUの交換となった。7時間後に再スタートしたが、水温と油温が上昇。リアの挙動にも問題あり、わずか29周でテストは終了となった。あの悪夢がまたマクラーレンに降りかかっている。
3日目は悪天候のためタイムを記録したのはアロンソのみ。
最終日4日目はついにマクラーレンが結果を出した。ドライバーのバンドーンが2番手タイムを記録したのだ。
これはマクラーレンにとって嬉しい結果だったに違いない。
トロロッソも凄かった。最高速をはかるスピードラップで、メルセデスと並んだのだ(マクラーレンはアロンソが9位)。しかも、トロロッソは全チーム最多229周を走破した。
トロロッソ・ホンダとしては出来すぎの第一回合同テストは終わり、またすぐに3月6日の第二回へと突入していく。
マクラーレンにとっては、さらに信じがたいトラブルの日々になる。
ホンダだけが悪かったわけじゃない?
2018第二回バルセロナF1合同テスト1日目、ホンダエンジンはノートラブル。ブレーキシステムの問題で54周になったが、タイムは5番手。トロロッソとして5番手は上々だ。
マクラーレンは1日目より酷いトラブルが続いた。3度の故障で38周しか走れなかったのだ。
ここまでマクラーレンにトラブルが続くとは、誰も想像できなかった。
内容は午前中はバッテリー、午後はハイドロリック系で、マシンには焦げ跡があったという。
ここで、「やっぱりマクラーレンのマシンが冷却の問題を引き起こしたのでは?」と誰もが思った。
ホンダはサイズゼロというコンパクトなPUで挑み、それに伴うコンパクトなマクラーレンのシャシーが開幕前の話題だった。コンパクトなPUが悪いのか、それともそれを強要するコンパクトなボックスが悪いのか、結局はっきりわからぬまま、関係解消となった。
もしルノーエンジンになっても、未だにマクラーレンのシャシーが熱を抱えるのであれば、やっぱりホンダだけが悪かったわけじゃないとなる。
そんなことを思わせるテスト結果が1日目だった。
実際、マクラーレンのMCL33のエンジンカバーには応急処置として開口部を作り、ダクト増やしたりしてなんとか走っているような状態らしい。ただごとじゃないのだ。
ちなみにこの日、同じルノー製PUを使うレッドブルは160周を楽々走破した。
トラブルが続くマクラーレンにとって、ホンダPUがノントラブルなのは許せない。PUトラブルが原因で手を切ったのに、旧友のPUにはトラブルが起きないのだ。まるでマクラーレン時代がテスト期間だったとホンダがほくそ笑むかのように。
2日目はトロロッソ・ホンダが再び5番手。119周を走り、信頼性を疑う必要がいよいよなくなってきた。
マクラーレン側は残酷の結果となった。たった2時間でオイル漏れ。コース上でストップするという屈辱。結局、たったの57周しか走れなかった。
3日目はホンダファンにとって驚きの結果。タイムで3番手につけたのだ。
これにはトリックがあり、トップチームが最速ラップを目指さなかったためなのだが、トロロッソで3位はいい響きであることは間違いない。
さて、マクラーレンはノントラブルだったのか。
結果は、151周。ついに安定した周回を重ね、タイムでは6番手となった。
「マクラーレンは悪くない」が合い言葉
最終日の4日目は9日(日本時間の今日)に行われた。
メディアが気にしたのは、マクラーレンのトラブル。アロンソが7週目を走行中にストップ。赤旗となった。
最終日までトラブルが続いた合同テストについて、レーシング・ディレクターのエリック・ブーリエもアロンソも「たいした問題ではない」という強気の発言を繰り返しているが、これはマクラーレンの常套手段だ。
メディアへの発言をコントロールしようとしているのだが、これはスポンサー離れを防ぐため。メルセデスAMGやフェラーリと違い、マクラーレンにはそういう弱点があると言っていい。
彼らが欲しいのはスポンサー。それ以外にない。
「マクラーレンは悪くない」
それが彼らの合い言葉だ。
2017年のマクラーレンホンダ3シーズン目。「変化」を合い言葉にしたマクラーレンのトップたちは意気揚々だった。
長い間マクラーレンの顔だったロン・デニスを切った株主たちは、さらに経営重視のトップを選んできた。
3シーズン目(2017)のマクラーレンを追ったアマゾン・プライムのドキュメント『グランプリ・ドライバー』には、新しいトップが右往左往する様子が赤裸々に記録されている。
たとえば、新生マクラーレンで初めてホンダPUを載せるテストでは始動が上手くいかず、一気に暗い空気に。
新CEOジョナサン・ニールは「接触器の音が聞こえる」と笑ったが、まわりの誰も笑わない。
笑えないことが起こっているということにも気づかず、真っ青になるニールの姿が痛々しい。
レースを知り尽くした男、ロン・デニスが失脚したのは2016年11月。
いちメカニックからチームを作り、F2で成功するなどしたあとに、マクラーレンというチームを乗っ取り、その後F1で成功し、市販車部門も作り、合計で3社となったマクラーレンを統括する会社「マクラーレン・テクノロジー・グループ(MTG)」の会長兼CEOに。
35年間も総帥だったのに、最後は株主の喧嘩別れとなった。
理由は、ロン・デニス独裁による成績不振に他ならない。彼ではやっていけないという意見が社内に出たためだ(ジョナサン・ニールのクーデターという噂も)。ロン・デニスの持ち株は25パーセントだったため、他の株主の動向次第でCEOの座は降りなくてはいけない。
他の株主とは、TAGグループ総帥マンスール・オジェ。彼が25パーセントで、残り50パーセントはバーレーン政府投資ファンド・マムタラカトだった。そして、デニス以外の二つの株主が彼のCEO契約延長をしないと決めた。
ロン・デニスも最後はあがいたが、結局、11月をもって解任された。
2017年の3シーズン目、新生マクラーレンのエグゼクティブ・ディレクターに選ばれたのは、ザック・ブラウン。
彼はまさに、スポンサーを連れてくる名人で、そのせいなのか、この3シーズン目のプレシーズンから、異例のドキュメント制作が許可された。新CEOは、「接触器の音が聞こえる」のジョナサン・ニール(元マクラーレン・マネージングディレクター、前CCO)に。レーシング・ディレクターにはエリック・ブーリエが残った。新トップ3の誕生だ。
彼らがまずやったことは、「変化」をアピールするために車体の色を変えること。
オレンジ色になった車体に満足して、シーズンが幕を開ける。
確かに3シーズン目のホンダPUは酷かった。とにかくよく壊れる。シーズン前にホンダは「熱問題は解決した」と新PUで挑んだが、日本でのテスト結果がマクラーレンのシャシーで反映されなかった。
「新人」の経営陣は焦り、ホンダを切った。それはシーズン途中だったが、そのころのマクラーレンはなんだか可笑しかった。遅いのをホンダPUのせいにするために、必死だったからだ。
車はダウンフォースを増やすと安定しカーブを早く走れ、スピンをしなくなるが、その分、ストレートでのスピードは落ちる。
ホンダPUには回生エネルギーで得たパワーをあまり長い時間使えないという問題があったが、ダウンフォースを増やさなければ、まずまずのスピードは出た。
なのに、マクラーレンはぐっとウィングを立て、車自体を前傾にする。
マクラーレンの言い分としては、「PUにパワーがもっとあればダウンフォースを減らす。ストレートで勝負できるから。できないのであれば、カーブで稼ぎたいから、増やすのだ」ということ。
だとしても、増やしすぎだろ、というのがまわりの人々の意見だった。
「ストレートが遅く、カーブは速い」
これは、マクラーレンのスポンサー対策だ。
「マクラーレンは悪くない」
この構図は絶対に曲げない。
スポンサーのために、ダウンフォースを増やした?
ロン・デニスはF1で戦うための予算は9000万ポンドと言った。
だが、MTGの最高マーケティング責任者ジョン・アラートは、「優勝を目指すならさらに1億ポンド必要」と言う。
『グランプリ・ドライバー』には、例のお家騒動の仕掛け人であるマンスール・オジェと、マムタラカトのジェイク・モハメド・ビン・イーサ・アール・ハリーファが並んで歩く姿がある。あの、「ロン・デニスのCEO契約更新をしない」と決めた取締役会だ。
編集かもしれないが、とにかくインパクトがある。
ジョナサン・ニール、ザック・ブラウン、エリック・ブーリエ(ロン・デニス派閥の可能性あり。アロンソをマクラーレンに入れた人)の最初の3人の会議では、ジョナサン・ニールが「マンスールとジェイクから支援を得ているし、いつでも話せる」という生々しい会話が収録されている。
ザックはとにかくコマーシャルの人だ。「非常に金のかかるスポーツであるF1は、資金なしでは破綻する」。
とにかく、マクラーレンはスポンサーが命だ。
あれだけ「ストレートで遅い」と叫んでいた2017年のアロンソが、ホンダがマクラーレンを離れると決まったあとのブラジルGPフリー走行で「今日は速い」と言ったのは、ダウンフォースが軽かったからだ。
実はそのとき、アロンソはそのまま軽くして予選に臨みたかったが、結局は重い車で予選を戦い、惨敗した。
決勝の結果は8位と悪くなかったが、単に「スピンしない」という特性を持つ車となっていた。
商業的にもアロンソを手放したくない(契約は2017シーズンいっぱいまで)マクラーレンは、彼の言うことをよく聞き、コントロールしやすい車へとセッティングを続けた。それが年間を通しての重いダウンフォースへと繋がるのだが、ホンダとの離別が決まったあとは、コマーシャル的にアロンソの意見を無視してダウンフォースを増やした。
スポンサー向けに、マクラーレンのイメージを傷つけることは許されない。
ストレートで速いマクラーレン・ホンダは必要ないのだ。
アロンソは決勝後に「パワーがなさすぎて、トロロッソは大変だな」とホンダのPUだけを批判。ダウンフォースに関しては抑制するシステムであるDRSを「使ったけど駄目だった」ということを言っている。
ホンダとしては、「ダウンフォースが軽く、安定しない車を上手に駆ってこそプロドライバー」と考えていて、納得できない。それは他のトップチームも同じなんだから、アロンソだって、当然できる。彼の個人的な目標はセナに並ぶ3度目の優勝だが、セナこそが、空力的に難しいマシンを駆る天才だった。
ホンダはメディアを使ってホンダの正当性を訴えるわけもなく、ドライバーを味方につけるわけでもなく、ただ黙ってマクラーレンのメディア対策の餌食となった。
マクラーレンがホンダ切りを発表したのはシンガポールGP。そのフリー走行で、アロンソは4番手になった。5番手もバンドーン。決勝はバンドーンが7位。その後マレーシア(7位バンドーン)、日本(バンドーン12位)、アメリカ(バンドーン12位)、メキシコ(アロンソ10位)と続き、第19戦がブラジルGPで、ダウンフォースを軽くしたフリー3回目はアロンソが6番手。ダウンフォースを増やした予選はQ2(Q1、Q2、Q3と3回あり、少しずつ脱落していく)を二人とも突破できなかった。だが、決勝では8番手には食い込んでいる。
最後のアブダビはアロンソ9位。
シーズン後半のマクラーレン・ホンダの結果はあてにならない。だが、この間にホンダPUは進化していたのかもしれない。マクラーレンのメディア対策で隠されていただけだったのかもしれないのだ。
つい先ほど終わったバルセロナ最終日のトロロッソ・ホンダは、156周を走るも、テスト終了の原因はPUの異常データだった。4日間の日程を1台のパワーユニットで498周を走ったのだから十分だが、ホンダとしては最後の最後に異常が出て残念だったとコメントしている。これが残念と思うほど、今年の信頼性は抜群だ。
再び2017年に戻ってみる。バルセロナでのテストを終えて、CEOジョナサン・ニールとブーリエが話し合う。「泥沼にはまっている」「なぜこうなったのか自問しなくては」「予想していた状況とまったく違う」「おそらくアロンソはさよならを言う」「残留はありえない」
彼らは考えた。「チームは簡単に崩壊する。今のままではスポンサー獲得は難しい」
CEOのニールは社員をホールに集め、こう言った。
「テスト結果はショックだった。謝りたい」「この冬の間に我々は仕事を終えた」「結果に期待して試行錯誤するのは終わり」「新しい道を探る時が来た」
つまり、彼らは開幕前に試合を放棄し、ホンダ切りも考えていたということだ。
2018年の合同テスト最終日が終わった今、ジョナサン・ニールは社員に何を語るのか。
「俺たちは戦える」
ロン・デニスだったらそう言う。
速いことがバレてしまったブラジルGPFP3。