ハンター350は世界的に大ヒット。
今は同じようなエンジン特性を持つGB350とハンター350があるわけですが、エンジンを世に出したのは、GB350のほうが先でした。でも、ホンダが参考にした「可能性がある」のはロイヤルエンフィールドのエンジン。いったいどういうことでしょうか。
まず、内径(ボア)✖️行程(ストローク)はGB350が70×90.5mm、ロイヤルエンフィールドのJプラットフォームと呼ばれるエンジンが72×85.8mm。いわゆるロングストロークと呼ばれる部分は90.5mmのGBのほうが長くなっています。
ホンダが開発をスタートしたとき、ロイヤルエンフィールドは50年前のOHV2バルブエンジンを使っていました。
これはおそらく、一番最初のロイヤルエンフィールドの350ccエンジンである、A350のことかもしれません。
ブリット350用に、1949年に開発されたものでした。
このエンジンが、まさに70×90mm。
ほぼ、GB350と同じなのです。
「GB350は旧型のA350を参考にした」と言われても仕方ないほど、大きさが同じ。
ですが、ロイヤルエンフィールドが開発した新型はホンダのあとに発売されているので、それを参考に作られたわけではないことははっきりしました。
GB350の新開発エンジンを乗せたバイクがインドで発売されたのは2020年9月ハイネスCB350。
ロイヤルエンフィールドの新開発350ccエンジンJプラットフォームを載せたのは、メテオ350で、GBからわずか2ヶ月後の2020年11月にインドで発売。
ほぼ同時期です。
ということは、メテオ350のエンジンもGB350のエンジンを参考にしたわけではないことがわかります。
偶然なのか、同時期に350の新型エンジンが日本とインドで開発されたわけです。
ホンダは当初、インド市場におけるロイヤルエンフィールドの牙城を崩すのが目的でしたが、開発陣はA350を手本にしたという発言はしていません。
ちょっと疑問符が残るので、二つのエンジンの仕組みを見てみましょう。
ロイヤルエンフィールドの旧型A350はバランサーはなく、OHV2バルブでした。
それが、新型では1軸バランサー(1次振動を消す)が付き、OHV2バルブからOHC2バルブに。
一方、GB350は、OHC2バルブで、1軸ではなく同軸バランサー(CB250RSなどで昔から使われていたもの)になりました。さらに、前後非対称コンロッド(オフセットシリンダーのため)、密閉式クランクケースと現代的な完全新設計。前後非対称コンロッドはトルクを増し、重たいフライホイールも回せるので、さらにトルクはアップしていて、3000回転で3.0kgmという400ccのSR400並みのトルクを達成しました。
ロイヤルエンフィールドは4000回転で2.7kg。
トルクでは負けていますが、旧型より少しストロークを短くしたことで、もしかしたらレスポンスのアップを狙っていたのかもしれません。
0.5次振動と名付けられた振動を残すために
GBのエンジンは相当マニアックな仕上げになっています。
4ストロークエンジンは1度の燃焼で2回転するので、上下の振動も2回になりますが、その振動(ピストンの上下動で発生する1次振動)を邪魔と考えたGB350開発陣は、それをバランサーで打ち消しました。
この振動は一般的に、不快といわれています。長く乗っていると疲れに繋がる縦揺れだからです。「だから消した」とも言えるのですが、実は残したい鼓動の振動を際立たせるためという側面もあったそうです。
GBが目指したのは、「エンジンが爆発する〜タイヤが回る〜排気音がする〜エンジンが揺れる」が一回のタイミングで来ること。そのためにまざまな調整がされていて、一回の「どん」がクリアになっています。
この「どん」に、先ほどの1次振動は当然含まれていないのですが、その鼓動の振動になる0.5次振動なるものを残したのです。これは開発陣が名付けたものですが、タイヤが地面を引っ掛けるようなトラクションの時の振動だそうです。
勝手な解釈ですが、爆発する瞬間というのは力が出る瞬間。だから、ぐっと力が入り、タイヤもぐっと力が入る瞬間なのではないでしょうか。その「ぐっ」と「どん」が同時に来ると気持ちがいいというわけですね。
この0.5次振動は、1次振動が大きいと、回転数が上がるにつれて、1次振動の影に隠れてしまいます。なので、1次振動だけを消したのです。この仕組みが同軸または2軸バランサーです。(※2次振動なるものも消しています)
このバランサーのおかげで、特に回転数が上がったときに0.5次振動が残るようになっています。
つまり、GBのバランサーは、鼓動の振動を極めるため。に存在しているのです。
ロイヤルのエンジンはもしかしたら0.5次振動もバランサーで決してしまっている可能性があるので、二つのエンジンをその視点から比べてみると、興味深い印象が生まれるかもしれません。(低回転ではもともと0.5次振動は際立っているので、ハンター350も「どん」となります)
4ストロークの単気筒はそもそも、トラクションに強いと言われています。
1気筒あたりのパワーが大きくなりやすい上に、一度休むので、また動き出したときに地面を掴みやすいからです。そのために悪路に強く、オフロードバイクに重宝されてきました。
多気筒はトラクションが弱くなるのが特徴です。
その後輪が地面をぐっと掴む感覚が、GB350のエンジンは優れているということになります。
メテオ350のエンジンは、当初「マイルド」と感じる人も多かったのですが、ハンター350で少しパワフルな味付けになり、大ヒットしました。
実際に、筆者もハンター350に試乗して、大変気に入ってしまいました。
ただ、たとえば250ccの単気筒バイクに、迫力あるマフラーを付けた感じと似ているかもしれません。
そうなると、GB350が今度はマイルドに思えてくるのです。
ですが、最近(2024年10月)に試乗したGB350のエンジンの印象も強烈でした。現時点で試乗しかしてませんが、発売当初の試乗の印象に比べて、「こんなに音がはっきりしてたっけ?」と思いました。
規制対応で出力が落ちたはずなのに、パルス感は増している感じがしました。気のせいか、マフラー等の調整もあるのか。わかりません。また、回しても綺麗なバイブレーションになるので、関心しました。
「え? これじゃあLツインも真っ青じゃないか」と思ったのです。
これぞ2軸の効果。その綺麗な振動は、たしかにハンターでは感じられないものでした。
※音がライダーの耳に入りやすくなるように、フィンの風切り音をなくし、ドライブチェーンは専用開発のシールチェーンになっています。また、マフラーでは高周波もあえて残すことで耳に残るそうです。
GB350のロングストロークは理想を求めた結果
ホンダ開発陣によると、ストロークの長さはあくまで理想を求めただけのことだそうです。
彼らの調べでは、ロイヤルのロングストロークの起源は500ccの84×90mmで、これはBSAなどでも使われていたのだとか。
でも、インド市場をターゲットにしていた以上、悪い路面を蹴るために相性が良かったロングストロークになってしまうのは必然。インドがなければ生まれていなかったのがGB350のエンジンです。
それにしても0.5次振動だけを残すなんて、日本的な、変態的な、素晴らしいこだわり。
振動の調整はバランサーのほかに、2気筒にしたり4気筒にしたり、クランクを位相したりして求めるもので、単気筒はそういった振動調整の仲間には入れてもらえませんでした。
それが、「単気筒の一発に集中する」という振動作り、音作りをしたのですから、GB350のエンジンは異質なんです。
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