バイク選びにおいて、1気筒あたりの排気量を見ると特性が良くわかるはずです。
たとえば、SR400とW800。
W800はロング・ストローク、SR400はロングとはいえませんが、重いフライホイールで「どん」と回るフィーリングは同じ。
そして、一気筒あたりが400ccと同じです。
ということは、1回の爆発で同じトルク(ストロークの違いで実際は違います)がタイヤに伝わっています。
音の大きさもほぼ同じエネルギーのはずです。
違いは、1回転ごとに爆発を繰り返すW800と、2回転で一回の爆発をするSR400の違いです。
SR400は4ストロークの単気筒エンジンの特性として、一回の燃焼のあと必ず一回休みます。
W800は一回転ごとに交互に爆発するので、休みがありません。単純計算で2倍のトルクをタイヤに伝えることになります。
つまり、音や鼓動、一回の爆発のトルクは同じはずなのに、W800と比べるとSR400は1回分は一気筒休止のような状態になり、それが高速などでスピードを出したいときに差が出ます。
80km/Lからもトルクフルに回せるW800は、ロングツーリングに強いというわけです。
フィーリングは非常に似ているので、W800のオーナーにとって、SR400に乗ると、「途中から加速しない」となります。
もしW800からSR400に乗り換えるとするならば、車体の重さ、燃費といった部分が理由になるでしょう。
ちなみに、SR500はロングストロークなので、さらにW800と似てきます。
一気筒あたり500ccが理想という説もあるので、SR500のエンジンは迫力があります。
しかも、初期型は重いフライホイール(2.24kgくらい)だったそうで、低回転トルクフル。面白そうです。
排気量の大きい気筒には重いフライホイールを使うことができる
重いフライホイールの象徴的なバイクは古いハーレーです。
ハーレーは今も大排気量で勝負していますが、昔は一気筒あたり400ccから600ccでした。
重いフライホイールを回すパワーを排気量でまかない、心地良い鼓動を生みました。
一方で、もし軽いフライホイールにすると、すぐに回転数が上がるエンジンになります。
それを、「レスポンスがいい」「吹け上がりがいい」と表現します。
レーシーのバイクに乗ったとき、低い回転数でトルクを感じられないのは、しっかり回すのが前提になっているからです。しっかり回せるので、ぐっと回転数を上げると、最終的なパワーである馬力の数値は上がります。
そのため、「馬力」という数値は、実はあまり参考になりません。公道で回転数をそこまで上げるチャンスはなかなかないからです。
たとえば、250ccを4つに割り、一気筒あたり62.5ccになったZX25Rは、当然軽いフライホイールになります。重いフライホイールを回す力はありません。
なので、簡単に回転数は上がります。それでもスピードはあまり出ないので、公道で高回転を楽しめ、馬力も得ることができます。
最大トルクは21N・m。これは、4つの気筒を13000回転で合わせたもの。一気筒あたり5.25N・mのトルクということになります。
ただし、13000も回さないと、出ないトルクというのは、やはり数値として、公道ではあまり参考になりません。
スーフォアの場合、トルクは39N・m/9500rpmですから、1気筒あたり9.75N・m。同じ400のエリミネーターは37N・m/8000rpmでほぼ同じです。二気筒なので、一気筒あたりは18.5。そして、スーフォアの馬力は56psを11000回転。エリミネーターは48psを10000回転です。最終的な数値がほぼ同じですが、1気筒あたりの排気量が大きいエリミネーターのほうが、一発の振動を感じられそうです。
CB650Rの場合、63N・m(6.4kgf・m)/9,500rpm。95馬力(PS)/12000rpm。4気筒なので1気筒あたりは15.75。SV650は63N・m/6800rpm。72馬力/8500rpm。2気筒なので、1気筒で31.5N・mのトルクを出せます。最終的な馬力に差が出ていますが、これは2気筒のほうが一気筒あたりのトルクがあるので、フライホイールも4気筒よりは重くなっている可能性があり、高い回転数は4気筒ほど望めません(軽くすれば問題なし)。その分、低回転域でトルクが出るので、公道で使いやすいバイクになっているはずです。
軽いホイールで、4つの気筒が高い回転数までいけば、馬力はどんどんアップします。なので、CB650Rの最大馬力は高くなっています。
SV650は熟成を重ねていくうちに低回転型になっていたようですが、振動を打ち消すLツインなので、低回転の鼓動型にしないと、どこで鼓動を感じるんだということになります。4気筒と違って、回転数によって音や振動が変化するので、そこが魅力的です。
SR500はロング&ヘヴィで鼓動感抜群。問題は振動。
36.3N・mで5500回転という数値を出したのは単気筒エンジンのSR500です。CB650やSV650と排気量が近いので、トルクも似たようなものになりますが、ロングストロークと重いフライホイールでトルクが上がっているかもしれません。
5500回転なら公道でも現実的です。250のZX25Rの21N・mに比べて、2倍の数値になっていないと思うかもしれませんが、5500回転でこの数値を生み出せるということです。
回転数で馬力を稼ぐことはできないので、レースには不向きということです。単気筒なので振動が酷くなるはずです。
そういった振動の問題があるロングストローク、重いフライホイールという、低回転の単気筒エンジンは、日本ではほとんど作られてきませんでした。それをやるなら、SV650のように二気筒にして、なおかつLツイン、もしくは270度位相クランクにすることで、高回転時の振動を消すという方法がトレンドだからです。
ですが、最近、単気筒でチャレンジしたのはGB350。(2020年9月 ハイネスCB350という名前でインドにおいて販売。日本では2021年)
同時期に生まれたのがロイヤルエンフィールドのメテオ350(インドでは2020年11月)、のちにGBの歯切れのいい排気音に影響を受けて生まれたのがハンター350です。
いずれもロングストロークと重いフライホイールで、心地よい鼓動と低回転での粘り、トルク、燃費を手にしました。
振動の問題は、それぞれが独自の方法でバランサーを使って解決しています。
これ以上小さい排気量だと、その心地よさを得られないという点で、ギリギリの排気量。
しかも空冷という面で、まさに古いハーレーやW800の世界を再現しています。
GB350の開発が始まったころはまだメテオの新開発エンジンはなく、50年以上昔のOHV2バルブでしたが、この低速トルクエンジンを目標にしたそうです。3000rpmのトルクにも開発当初からこだわっていたらしいのです。
そして、爆発と回転の次に訪れる、回転だけの振動をバランサーで打ち消し、一回だけ「どん」と来るエンジンに仕上げました。ということは2ストロークの単気筒のようなフィーリングなのかもしれません。
新型で重いフライホイールを使った低回転型は、ロイヤル・エンフィールドの350、GB350、W800(メグロK3も)しか手に入りません。中古も見ると、SR400(ロングストロークではない)、SR500が仲間です。
ちなみに、W800は360度ごとの燃焼間隔で、少し前のトライアンフと同じです。
これは、単気筒の振動の問題を解決していない仕組みですが、やはりバランサーを入れています。
しかも、800ccというパワーがあるので、それほど回さなくてもいいというわけです。
高速でも5000回転ほどで十分のようなので、振動も大きくなりません。
ホンダはGB350のエンジンの2気筒をまだ作っていませんが、もしかすると将来、360度クランクの2気筒にチャレンジするかもしれません。それによって、鼓動を弱めることなく、振動でも悩まないエンジンになるからです。
もしこのエンジンで270度にしたら、私は怒ります!(ロイヤルの270度エンジンはむちゃくちゃ気持ちいいです。鼓動感はあまりありません)
GB650、もしくは800が世に出たら、ターゲットは間違いなくW800です。
以上のような視点で低回転型エンジンの最大トルクを改めて比べてみると、バイクの特性を頭で思い浮かべることができます。
ハンター350 27N・m/4,000rpm
GB350S 29N・m/5,500rpm
SR400 28N・m/3,000rpm(年式によって違いあり)
SR500 36.3N・m/5,500rpm
W800 62N・m/4,800rpm
「ハンターは最終的に振り絞ったトルクはGBに負けているのか。GBは排気量の大きいSR400に勝っているなぁ。でもSRは3000回転か。すごいな」という感じです。
3000回転という低回転で最大トルクを出すSR400は最終型で、それより前の戻るはもっと高回転で最大トルクが出ていました。
公道で使う常用域の回転数で、強いトルクが出るのは楽しいバイクだと言えるでしょう。
その点で、このハンター、GB、SRは楽しいバイクだと感じる人が多いのです。
SR500の数値も興味深いと思います。しかも重さは170kg。GB350は179kg(SR400ファイナルは175kg)ですから、やばいです。
そして、4800回転で62N・mのトルクを生むW800。間違いなく快適ですね。ただし、重量が226kg。ハーレーのように重いバイクなのがネックです。
最後に、5つのバイクの燃費です。
ハンター350 36.2km/L (参考値 WMTCはなし)
GB350S 39.4km/l(WMTC) 定地燃費率 47.0km/L
SR400 29.7km/l(WMTC) 定地燃費率 40.7km/L
SR500 WMTCなし 定地燃費率 48.0 km/L
W800 20.9km/l(WMTC) 定地燃費率 30.0km/L
ハンターとGBの燃費は驚異的です。SR400にも圧勝しています。
W800は2倍の排気量で燃費はかなり落ちていることがわかります。
というわけで、低回転で粘りがあり、鼓動があり、燃費が良いという特性を持つロングストローク&重いフライホイールエンジンですが、排気量が大きいからといって、必ずしも音や鼓動の迫力が2倍になるわけではないということがわかっていただけたでしょうか。
2倍にはならないけれども、よりスピードを出したいとき、重たい荷物を乗せて走りたい、タンデムをしたい時など、W800のトルクはユースフルだと思います。逆に、軽いバイクでカジュアルに乗りこなしたいときは、ハンターとGBの性能は驚異的です。
ロイヤルエンフィールドの350ccは1946年のブリット350(エンジン名はA350)から続く伝統のロングストロークと言われていますが、2020年に今の新型エンジンになったそうです(ボア✖️ストロークも変更。名称はJプラットフォーム)。